在宅医療における薬局の役割とは?多職種連携と薬剤処方(多摩市・徳永薬局)


 在宅医療の充実のためには地域の薬局の役割は重要だ。薬局業務の効率化を進める徳永薬局は、多職種連携のためのICTツールに着目。いち早くMCS(メディカルケアステーション)を導入した。残薬管理が容易になることで、薬剤処方の柔軟性が向上。さらに、医師と薬剤師との関係性が進化するツールとしても期待されている。今回は調剤薬局のほか、医療機器卸、介護、デイサービス、エンバーミングなどの事業子会社を展開している徳永薬局株式会社の小林輝信氏に話を聞いた。

徳永薬局株式会社の小林輝信氏

徳永薬局の在宅医療への取り組み

1982年東京都稲城市で設立された調剤薬局・徳永薬局は、現在は東京・神奈川・埼玉を中心に67店舗を展開するまでに成長している。だが、大型病院の門前などにはほとんど立地していない。地域の診療所やクリニックと連携を図りながら、地域密着の薬局づくりをモットーにしている。同社で在宅医療にかかわる在宅部が作られたのは2010年3月のこと。全国67店舗の調剤薬局のうち、在宅医療対応店は53店、うち在宅医療専門の店舗は6店だ。ユーザーは居宅が約1000人、グループホームなど介護施設入所患者は約900人と多い。これら在宅医療対応の店舗では、自宅での注射や点滴、医療用麻薬注射の使用などに必要とされる無菌調剤室を備え、抗がん剤調整ができる陰圧ケモシールドを備えるところもある。

「認知症患者をはじめ、日中独居老人世帯、老々介護世帯、高度在宅医療を必要とする終末期患者や末期がん患者など、在宅移行患者は年々増加しています。地域の調剤薬局は外来受診者に加え、このような在宅患者をもフォローしていかなくてはならない。そのためには多職種連携のためのICTツールが不可欠です」と、小林輝信氏は語る。

徳永薬局・小林氏(後列右から2番目)とスタッフのみなさん
▲徳永薬局・小林氏(後列右から2番目)とスタッフのみなさん

 小林氏は同社において、ICTによる薬局業務の効率化を進めてきた旗頭の一人。在宅医療関係の報告書作成のためにタブレット端末の活用を進めるなか、専用アプリ開発の必要性を痛感し、自前で多職種連携ツールを開発したこともある。しかし、町田市の在宅医療支援クリニックとの連携などをきっかけに、2013年からは自前のシステムに替えて、MCSを導入するようになった。

在宅医療における薬局の役割と課題

在宅医療における薬剤師の役割については、2011年に厚労省が「チーム医療の推進に関する検討会報告書」の中で、在宅医療をはじめとする地域医療において薬剤師が十分に活用されていないことを指摘。その後、薬剤師の活用が促され、在宅医療に関わる薬局・薬剤師の数は年々増えている。
 在宅医療の患者と薬剤の関係については、薬剤の保管状況、薬の飲み忘れ、服用薬剤の理解不足などいくつかの問題が指摘されている。薬の飲み忘れなどによって無駄になる薬剤費は年間約500億円にのぼるという調査研究もある(※出典:厚生労働省 患者のための薬局ビジョン参考資料より)。薬剤の飲み忘れを防ぎ、患者に確実に薬を飲んでもらうためには、薬剤師の訪問管理指導が重要になるが、薬剤師が在宅患者を訪問できる回数は限られているのが現状だ。


 患者ごとに服薬カレンダーを作り、個別対応による残薬管理・指導をする薬局もあるが、薬局だけの対応では限界も見えている。
「そのために必要なのが、多職種連携です。医師、訪問看護師、歯科医師、ケアマネジャー、服薬介助・服薬確認をするヘルパーも含め、さまざまな職種とスケジュール調整や状況報告などで連携し、薬剤師が訪問しないときでも患者がきちんと服薬できるような体制をつくることが重要です。また患者・家族の意向をチーム内で共有することも欠かせません」と、小林氏は指摘する。

 病院の入院患者に対してであれば、院内の他職種がチームを組み、患者の意向のもと、医師を中心に医療計画や治療方針を確定して毎日のカンファレンスや申し送りなどを行ない、患者の容態や精神的変化にもスムーズに対応できる。高度在宅医療を必要とする患者に対しても、こうした多職種連携によるサポートが不可欠だ。
 しかし、在宅医療・介護の現場においては、関与するメンバーがそれぞれ別の事業所で勤務していることが多く、時間と空間を超えて共有できるツールの活用が求められていた。

残薬管理、処方の柔軟性向上——MCS活用のメリット

小林氏は多職種連携におけるMCS活用のメリットを次のように指摘している。

(1)残薬管理が容易になる

高齢者の在宅介護では服薬アドヒアランス(処方の決定について患者自身が積極的に参加し、その決定に従って服薬すること)の低下が大きな課題となっている。高齢者は多疾患ゆえに多剤処方されていることが多いが、認知能力が落ちてくると、処方される薬の種類や量を適切に自己管理することが難しくなる。

 とりわけ独居高齢者の場合はサポートする人もおらず、残薬管理はなおいっそう困難になる。薬剤師が訪問時に残薬管理を行うことが重要なのだが、足りない部分は、地域の介護関係者や福祉関係者との連携で補う必要がある。 「私は薬局内の人間関係に留まらず、介護、ヘルパーなどの介護職のほか、家族の同意を前提として、訪問マッサージ、介護タクシー、訪問理美容師といった訪問医療・介護に関わるさまざまな職種の方と積極的に関わるようにしており、そのことがより良いサービスの提供につながっています。

 たとえば、理美容師さんが患者宅を訪問した際、タオルを出すためにタンスを開けたところ薬がどっさり出てきたら、『薬、全然飲んでいないみたいだけど大丈夫?』と私たちに連絡をくれるわけです」とわかりやすい事例を挙げる。もちろんこうした前述の他職種からの連絡は電話でもよいわけだが、MCSを介在させたケースでは情報共有がより緊密かつスピーディに行われることは言うまでもない。
▲MCSを活用して多職種で情報共有された事例 ※MCS画像は旧バージョン

(2)処方の柔軟性向上に寄与する

MCSを利用することで、他業種が訪問した際の患者の容態やケアした内容、医師の治療内容や指導内容、既往歴などを効率よく共有できるため、服薬指導、生活指導について医師の治療方針を深く理解したうえで行えるようになった。「通常、医師が訪問時に薬剤変更や量の増減をしても、必ずしも薬剤師に報告があるわけでなく、多くの場合、患者を通して医師の意図を教えてもらわなければなりません。しかしMCSを使えば、医師の診療ポイントを確認できるので、薬剤師は患者宅ですぐに服薬指導が開始できます」と小林氏は言う。
▲MCS連携で薬剤師と医師との情報連携も可能に

(3)医師と薬剤師との関係が変わる

現実の薬剤師は患者の「病名」がわからないままに調剤を行うことが少なくない。大学薬学部でも「処方解析」の授業があるくらいだ。これは医師の処方箋から患者情報を読み取り、適切な服薬指導につなげる力を養うものだが、学生時代から「これは必要な知識なのだろうか?」と小林氏は疑問を感じていたという。

「処方箋の謎解きをするよりも、あらかじめ病名がわかっていれば、医師の意向を知ることができ、医師とより濃密な意見交換ができるようになります」と、小林氏はMCSがもたらす医師と薬剤師の関係の変化を指摘する。
「きめ細かい情報共有で薬剤師の本来の専門性を発揮できるようになることが重要。私自身、これまでは“モノ(=薬)”という観点から見ていたのが、MCSによっては“ヒト(=患者)”と向き合うようになった。今では、単に処方箋に書いてあるまま調剤するのではなく、「この薬はこのような症状に処方されていて、服薬以外ではこのようなことに気をつけて…」と、患者の立場に立って服薬指導を考えることができるようになった」と変化を語る。

「薬剤師が薬の使い方、副作用の症状、薬剤の変更などを医師に確認する場合も、医師が多忙な時に電話で話すと状況が正確に伝わらず、誤解を生じてしまうこともある。その点、MCSのメッセージは、いますぐに対応していただかなくても、時間のあるときに対応を検討して下さいということだから、情報伝達がよりマイルドになる。薬の飲み合わせや新しい薬剤の提案などを薬剤師が行う場合も、MCSのほうが電話やメールより言いやすい」という。

 こうした変化は、ヘルパーやケアマネジャーなどの介護職と医師・薬剤師との関係変化にもつながっている。「軽度の皮膚疾患や発赤について、ケアマネジャーやヘルパーが医師に電話するのは気が引けますが、MCSを使えば、写真を添付するなどして淡々と状況を報告できる。そこで見逃されていた小さな症状が拾えたこともありました。また薬を飲みにくそうにしている患者のことは、むしろ接する頻度が高いヘルパーやケアマネのほうが熟知している。その情報が薬剤師に伝わることも重要です」

 医療関係者から薬剤師への提案もある。例えば、在宅患者を訪問治療する歯科医から、患者の嚥下能力と処方された薬剤との関係について、MCS上に情報が寄せられたことがあった。その薬だと患者の嚥下能力を落とすことになるので、処方を変えたほうがよいというのだ。


 一人の専門職ではカバーしにくい患者の情報も、他職種からのリアルな指摘があることで、より多面的・統合的に把握できるようになった。
 この他にも、終末期がん患者などのペインコントロールにも、MCSは活用されている。ペインコントロールは、がん性疼痛などをさまざまな鎮痛薬や補助薬、あるいは神経ブロックなどを用いて制御する治療法だが、一般には基剤をベースに、レスキュー薬の増減量で治療効果をコントロールする。注射療法やペインコントロールを要する患者には、情報共有により残薬管理の精度が高まり、緊急対応が減少するなど患者にとっても医療者にとってもよい成果が出ている。

在宅医療を担う薬剤師の新たな使命

「今後、在宅医療のニーズは量的にも質的にもますます広がっていきます。在宅医療で医師、看護師が24時間体制で動くのであれば、薬局が動かない理由はない。薬局が動かないと患者さんのもとに薬を届けることができないからです。しかし、ただでさえ薬剤師不足の折、効率的な多職種連携を進めないと、その使命を全うすることできなくなる」と、小林氏は指摘する。さらに「多職種のチームが常に互いの顔が見え、何の障壁もなく情報交換できる関係にあれば、必ずしもMCSは必要ないかもしれません。しかし、患者数が多くなると、人間の対応力では限界があります」と、MCSを導入してから5年間の経験を踏まえてそう断言する。

 薬剤師の使命に関して、小林氏は最後にこう語っている。「在宅医療に薬剤師として関わることは、患者さんが亡くなるのを看取る機会も増えるということ。これは、一般的な調剤薬局の薬剤師では経験できなかったことです。調剤業務だけをしていた時と比べると仕事に対するスタンスや考えが自分の中で大きく変化しました。それは、多職種連携というチーム医療においてどの役割にも通じることだと思います」
  • 徳永薬局は全国67店舗。うち在宅医療対応店は53店、うち在宅医療専門の店舗は6店。ユーザーは居宅患者約1000人、グループホームなど介護施設入所患者約900人と多い(取材時)
  • 薬剤師の訪問時に加え、多職種が訪問した際の情報を共有することで残薬管理の精度が高まる
  • 残薬管理の精度が高まることで、終末期がん患者などのペインコントロールにおいても、緊急対応が減少するなど患者・医療者双方にとってよい成果が出ている
  • 患者の容態やケア内容、医師の治療内容や指導内容、既往歴などが効率よく共有できると、医師の治療方針を理解したうえでの服薬・生活指導が行えるようになる。薬剤師の専門性が発揮しやすくなる
取材・文/広重隆樹、撮影/平山諭、編集/馬場美由紀

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